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(有)伊東工務店
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「季節のはがき」2012.5


「耕して天に至る」

「耕して天に至る」この言葉の後には、「貧たること推して知るべし。」と続きます。(孫文の言葉)
伊勢の式年遷宮が始まった頃からの山の暮らし、水田の開墾という先人の生きる執念、苦しみと哀歓と矜持が感じられ、後の「貧たること推して知るべじ」というくだりへいきつきます。
景観の表現として前の部分のみ使いました。これだけで棚田に暮らしてきた人々の光と陰を表現できていると考えました。
 棚田の歴史は、よそ者が想像力で手触り出来るようなものではないのですが、あえて自分なりに言葉を選択してつくりました。また、「耕して」の意味からくる言葉の滲みと広がりは、土を踏んで来たという、幾世代もの人生の時間軸上にある仕事や暮らし、生活の哀歓、家族の営み、世間、その終わり無き日常をひと括りで言っているようにも感じます。
「天に至る」はその過去から現代まで続いたひとりひとりの生涯と捉えるような想像も働きます。
 愛宕山から流れでた、まだ初々しい春の水が田に注ぎ込んでくる。扇状に下る大地に従って水田は耕作されています。田んぼの畦は、丁寧に作られ、写真ではわかりませんが、泥で描かれた面が、上品に揃った際立ちを見せています。水平に迂曲する棚田は、夕暮れ時の空をその水面にうつして、美しく翳に消えて逝きます。数百年以上前から現代に至るまで、同じ光芒の色彩があったのでしょう。過去に描かれた姿も未来に描くであろう姿も同じである。この村の人々が作り出した辛苦と歓声の物語が田の文化となり沈殿しています。
 渺呼として漂う哀歓の遥かな気配が、払暁の風に揺らいで、その光の屈折のなかで輝く。「日本という価値」そのものが実現され、景観はあまりに美しく、継承されている姿に戦慄するという表現が出来ます。
 綯い交ざり縹渺として響きあう、過去現代未来の誇りと執念の気配。そしてこれまでになった幾世代を継いだいきさつを語りかけてくるようです。
 この棚田の頂上付近には神社があり、まちがいなくこの営みを守り育てて来たという氏神様の誇りまで感じられます。社は小さく、屋根が栃葺きの為、それを守る覆屋が作られています。神楽の練習の音色が棚田に吸い込まれて、春の祭りの準備がはじまりました。光景は、土を踏む、風に聴く、そして遥かな時をみる。豊穣の予感と、うつろはぬものがあるという安堵感が間を支配していました’。この棚田は名画の残缺をみるようです。

撮影 平成二十四年五月十三日