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(有)伊東工務店
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「季節のはがき」2012.11


「欄間」(らんま)

写真は、古民家の座敷付書院。明治17年の改築で備えられたものです。書院は、典型的な形で、透かし欄間の部分に特徴があり、御簾(みす)の透かし彫りとなってい ます。入側の障子を解放すると、庭園の緑の景は御簾越に梳かしとられ、うつろいのそこはかとない気配が間に滲んできます。写真では白く飛んでよく解らないけれど実際には庭園の樹木がやわらかく梳き取られて見えます。下地窓の景の取り込みと同じ雰囲気でさらに洗練され精密で上質な印象を描く景となっています。 御簾の彫りだけでこんなに造形的に完成されているものは、この場所以外にはみたことがありません。制作は下絵を板に描き、アサリを押えたまわし引きの鋸でくりぬき、その鋸あとをヤスリでなめらかにして完成します。板は木挽きさんが一番やわらかそうな部分を挽き出しますが、その後、くりぬいていくと一般的な板は、数年以内に曲がったり捻れたりします。100年経過してほとんど同じというのは、目がきいた人が選定した素材を使ったということです。明治の頃までが、木挽きさんも含めて日本の大工技術の頂点であったことは、これ以外の建物にもみられます。それ以降は下降してしまったというのは、まちがいないようです。入り側にまわってこの欄間板を見ると、木痩せの為、巾の縮がみられます。くりぬいた側は乾燥が早かったため、制作時とほぼ同じなのですが、書院床の間よりの板は、乾燥縮があとから来たため、7分以上(21mm)その巾が小さくなって嶮鈍(けんどん_の溝から落ちそうです。
 御簾の素材はかなりおとなしい玉杢がみられる大きな楠の木のようです。欄間透かし彫りの手間は八人工半と記載がありました。(国重要文化財馬場家修理報告書)磨かれて奥深い輝きを備えた書院甲板は欅、障子の竪框は黒漆、小桟は七厘見付(2mm)きの窮めてて均衡のとれた姿となっています。
 文章の闇を穿(うが)つとししたのは、障子にやっとたどりついた光が、力なく闇に跳ね返されています。間は墨色の闇がまとわりついて、その墨色の一番淡い部分が障子紙、小桟の隙間から光が差して、桟との対照が見事に演出されています。やや難しい繊妍(せんけん)という表現は、繊細であると同時に小桟一本一本の組子の構成が、なまめかしく張りつめているという印象を表現しました。座敷飾りの使いの背景は、歓待するということであると考えます。意匠は、御簾の梳かし欄間という雅へ誘う姿であり、この地では憧憬のおもいに通じる意外性をうつろいとともに上質に響かせています。最初の印象を言葉にすると、「雅という光に憧憬の俤が灯ります。」となりました。美術という言葉が考え出されて美術、芸術とう新しい言葉ができました。その概念以前の用の美としてあった日本の意匠は、たんなる職人の技術でしかありませんでした。ややこしいですが、芸術美術は輸入された翻訳の概念であった為、この時代は職人の名人芸というあたりに落ち着くような捉えかたであったと感じます。最後に、江戸時代(幕末)の建具意匠の名解説(建具雛形)があったので紹介しておきます。
 虚は実の用たり、墻(かき)と壁それ実なり、門を開き窓をうがちて人を通しあかりを通す。
則ち空虚用をかたちにあらずや。其門窓に戸障子あり、実もなくはあるべからねどその戸障子を文飾するに、戸に透かし彫りあり、障子に組子あり、空虚ならで何をもって文飾とせん。建具に文飾あるは、人に礼儀あるに同じ。躾方の書は台棟(おおく)あれと、建具の雛形は、この小冊の外いまだ見ず。抑抑(そもそも)、空虚を語るもの、傾城 優怜、釈迦、老荘、戯作者ばかりを思いしを、建具も亦虚の用ありとそぞろに可笑しく筆をとるは、物の本書、笠亭仙果
意味は、傾城(太夫) 優怜(役者)、釈迦、老荘、戯作者同様、虚の用をうたい虚なるがゆえに文飾(意匠)の必要を説いています。嘉永5年(1852)幕末のころの出版 笠亭仙果は、当時の流行作家です。実にうまい表現です。
接客の場である座敷、付属する飾り機能としての床の間、床脇、書院は空間の意匠に歓待の気持ちを込めて使われていたに違いないと思います。古格の風韻に玲瓏にささやく光の余韻は、四季のうつろいにまぎれて ふれる度にこころを爽快にしてくれます。こんな空間の文飾という仕掛けを進化させ、歓待の気持ちを表現する現代住空間の意匠にさりげなく織り込んでみたいものであると感じました。


撮影 2012/10/21 長野県松本市国重要文化財馬場家住宅座敷書院